【来日外国人の「昔の日本」見聞記 その18】
・青山における最初の飛行の翌日、私は、一円紙幣を封入した一通の書
面を受け取った。書面の趣は、発信人は自分の屋根から私の飛行を見
物した、しかし、相当の入場料を払わずに見物することは穏当ではな
いと思うというものであった。その後、なお幾つかの書面が来た。
・米国において、数百万の人々は、相当の入場料を払わずに私の飛行を
見物した。すなわち、飛行場以外の所から、私の飛行を見物した。し
かし、一人として場外から見物したからといって、入場料を払おうと
した者はいなかった。
・私は、金銭を封入したかかる書面を受け取って、一方ならず吃驚した
そして、この正直な人々の意志を尊敬すると同時に、また意外の感に
打たれざるを得なかった。
・正直は、いずれの国においても教えられる。我々すべては、幼少の時
より正直であるべく教えられた。しかし、私は、聞かんことを願う。
日本以外、他のいずれの国民が自分の家から私の飛行を見た時に、果
たして金を送って寄こすであろうかと。否、私は、他の国民は、金を
送って寄こすほど正直ではあるまいと思う。
・国民をして、かくも厳密に正直ならしめたるは、これまったく日本の
教養の至高至深なるゆえんである。
・しかし、私は、これら深切にして正直なる人々の手紙に封入して送付
せる金を納めることは出来なかった。しかして、全部これを返送した
ただ、その書面は、日本国民の修養並びに正直なる観念のいかに日本
において高くあるかを表明する証拠として秘蔵しつつある。
〔アメリカの曲技飛行家・アート・スミス。1916年(大正5年)来日。
4か月各地で公演〕
(村岡正明著「日本絶賛語録」より適宜引用)