NSJ住宅性能研究所

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床組・小屋組シリーズ7

床倍率を高める方法

■そもそも「床倍率」とは?

床倍率は、床や小屋組(屋根まわりの骨組み)が、横方向にどれくらい変形しにくいか=かたさを表す指標です。

床倍率1とは、

床1mあたり 1.96kN(約200kg)の水平力をかけたときに、床の変形角が 1/150ラジアン になる性能

を持つ床、という意味です。

なので、

・床倍率0.5 → 約100kg/mで同じ変形
・床倍率2.0 → 約400kg/mで同じ変形

というイメージで、数値が大きいほど、かたい床=横に変形しにくい床になります。

床がかたいと、

地震力・風圧力などの水平力を、ブレースや耐力壁まで、安定して運ぶことができる

ので、建物全体の耐震・耐風性能にとって非常に重要です。

※2025年10月16日に、建築基準法改正(四号特例縮小・仕様規定見直しなど)を反映した、

『木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2025年版)』(新グレー本)

が全面改訂版として発刊されました。

今「最新」といえる整理情報は、

・床倍率1=1.96kN/m という換算の考え方はそのまま
・具体的な倍率表や使い方の細部は 2025年版グレー本を参照すべき

という状態です。

また、合板メーカーなどの資料では、

・例えば厚さ24〜30mmの構造用合板をN75@150で四周釘打ちした床について、許容せん断耐力 約7.8kN/m(床倍率4.0程度) を採用できるケース
・詳細計算法を使えば最大13.7kN/m(床倍率7程度)まで検討できる

といった情報も示されています。

→ 性能評価や認定工法を使うと、従来の表より高い床倍率を使える場合もある(※ただし、きちんとした根拠・計算が必須)



■床板と床組の違い

・根太組の床(根太間隔)
・根太組の床(落し込み・半欠き・転ばし)
・根太レス床(川の字打ち) など

これは、

・根太を使う床か、根太レス床か
・根太と梁の接合方法(落し込み・半欠き・転ばし)
・根太のピッチ(@340、@500)

によって、床のかたさが変わることを意味します。

・構造用合板・構造用パネル(1~2級)
・製材板

などで、床板の種類と板厚・留め付け方法によって床倍率が変わります。

言い換えると:

・構造用合板+根太レス+厚板+釘ピッチを詰める → 床倍率が高い
・製材板+ピッチ広め → 床倍率は小さい

という傾向です。


■野地板(屋根)の部分

屋根については、

・垂木間隔(@500以下)
・転び止めの有無
・屋根勾配(30°以下/45°以下)

によって、屋根面の水平剛性(野地板としての床倍率)が変わることを示しています。

ポイントだけ抜き出すと、

・構造用合板の方が製材板よりかたい
・転び止め(横つなぎ)がある方が、水平剛性が上がる
・勾配が急になると、水平面に換算した時の「水平成分」が小さくなるので、倍率はやや小さめ

と理解するとイメージしやすいです。

●火打ち

火打ちでは、

・火打ちの材料(鋼製 or 木製)
・火打ち材の断面(木材なら90×90以上)
・1本が受け持つ床面積(負担面積)
・取り付く梁せい(240以上/150以上/105以上)

によって、火打ち1本当たりの床倍率相当の効きを示しています。

負担面積の計算例:

4.0m × 4.0mの床に火打ちが4本ある
→ 各火打ちの負担面積は 4.0×4.0 / 4 = 4㎡

面積が大きくなるほど、1本に分担させる量が増えるので、実質的な床倍率は小さくなる、という考え方です。


■床倍率を高める具体的な方法

ここからが本題の「どうやって床倍率を上げるか」です。

① 斜め板張り

考え方:
厚さ18mmくらいの製材板を、床の上に「斜め」に張っていく方法です

板を斜めに張ることで、筋かいのように「引張」「圧縮」で力を受けることができ、水平剛性が上がります。

設計上のポイント:

●根太ピッチは500mm以下にする
板が細長いので、ピッチが広いと「座屈(ぐにゃっ)」としやすくなる

●床全体で「ハの字」または「Vの字」になるように張る
・一方向だけだと、片側だけ引張・片側だけ圧縮になって偏りが出る
・ハの字/Vの字にすることで、引張材と圧縮材のバランスが取れる

●試験結果からのイメージ
・通常の直張りの製材板床 → 床倍率 ≒0.4
・斜め板張り → 床倍率 ≒1.4

つまり、斜めに張るだけで、床のかたさが約3倍になるイメージです。
(※具体的な試験値はグレー本などの資料によるもので、詳細は最新版の設計指針を確認してください)

② 水平トラス

イメージ:
筋かいを水平に寝かせたもの」が水平トラスです

スノコ状のバルコニーなど、床面を開放的にしたいが、ある程度の水平剛性もほしいという場面で使われます。

構成:

・部材は90mm角以上の木材を使用(座屈を避けるため)
・梁と梁の間を斜材でつないでトラスを組む

接合の注意点:

・圧縮で受けるだけなら、ボルト接合程度で可
・引張力も負担させたいなら、鉄骨製の接合具など、よりしっかりしたディテールが必要

ここがポイントで、

トラスは部材よりも、むしろ接合部の設計が命

と言ってもよいくらいです。

その他の注意点:

・スパンが長くなると、トラス材自体の自重でたわむことがある → 中間の吊り材などで持ち上げる工夫が必要
・トラスは大スパンの空間で使われることが多いので、構造計算で接合部の応力をちゃんと確認してからディテールを決めるのが前提です

③ 立体トラス

イメージ:
水平トラスを「立体的」に組んだものが立体トラスです
→ 屋根・床・梁を一体の空間フレームとして扱うイメージ

注意点:

●各接合部は、複数の部材が集中するので、十分な緊結が必須

●トラスの下辺材(外周の梁)が外側へ広がらないように、

・タイバー
・連結梁

などで、輪ゴムのように広がる動きを抑える必要があります。

立体トラスも、大空間用の高度なディテールなので、

・どんな荷重(地震・風・積雪・自重)が
・どの経路で
・どの接合部に流れるのか

を構造計算で確認したうえで使う、というスタンスになります。


■実務的に、床倍率を上げたいときの考え方(まとめ)

●基本は構造用合板+適切な釘ピッチ
・床倍率を効率よく上げる一番シンプルな方法
・板厚(12〜24mm)、釘の種類・ピッチ(N50/N75、@150以下など)で性能が決まる

●根太レス床+厚物合板は、かなりかたい
川の字打ち・24mm以上・N75@150以下などの仕様で、床倍率4.0程度を取れる仕様もある(認定やグレー本等の条件付き)

●製材板だけの床は、合板床に比べてかなり柔らかい
・床倍率0.2〜0.4程度の世界
・どうしても板張り意匠を優先したい場合は、
 〇斜め板張りにする
 〇下地側に合板を追加する
などの工夫が必要。

●大スパンや開放的な床ならトラスを検討
・スノコ床・バルコニー・ロフトなどで「抜け感」を確保しつつ剛性を確保したいときは水平トラス・立体トラスも選択肢になる。
・ただし、接合部の設計が難しく、構造計算が必須。

●最新の数値・仕様は 2025年版グレー本・メーカー資料を参照
・倍率表の具体的な数値や、
「どこまで倍率を上げてよいか」
「認定工法の扱い」
などは、『木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2025年版)』 や
合板メーカーの技術資料、プログラム認定資料などで更新されています。



次回は、代表的な屋根形状について、お話します。

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