NSJ住宅性能研究所

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床組・小屋組シリーズ6

水平構面と変形

木造建物では、

・水平構面(床や屋根の面のこと)
・耐力壁(筋かい壁や合板貼りの壁)
・それぞれの剛性(かたさ)
・どこに配置するか

が、お互いに強く影響し合います。

とくに水平構面の変形の仕方をできるだけ均一にすることが重要です。

もし、ある部分だけが大きく変形してしまうと、

・せっかくの耐力壁がうまく働かない
・耐力壁が効く前に、床や接合部が先に壊れてしまう

といった問題が起こりやすくなります。


■外周だけで壁量を満たすと何が起こるか

2階建ての2階のように、必要壁量そのものは小さい階では、外周部だけに耐力壁を配置しても建築基準法上の必要壁量を満たしてしまうことがあります。

しかし 壁が外周にしかない ということは、

耐力壁の「構面間距離(耐力壁どうしの間隔)」が長くなり、その長いスパンを、床や屋根の水平構面が一生懸命つなぐという状態になります。

このとき、

・水平構面の剛性(床倍率)
と、
・構面間距離の長さ
が、変形の分布や、梁や継手に生じる軸力に大きく影響します。



■5つのケースで考える

ここでは、屋根面に地震力が作用したときの、

・床倍率
・壁倍率
・壁量
・構面間距離

の違いによる、屋根面の変形と梁の軸力の変化を比較しています。

数値はイメージとして捉えてもらえればOKです。

●ケース①
条件;
壁倍率:2
存在壁量:建築基準法ちょうど(1.0倍)
屋根面の床倍率:0.35
壁は外周部だけで必要壁量を満足

●何が起きるか:
・耐力壁が外周部にしかないため、構面間距離が長い
→その結果、屋根面の変形が場所ごとにバラバラ(不均一)になっている
・床面の外周や耐力壁のある構面に接する梁には、約5kN程度の引張軸力が生じている
・大地震時には、この軸力が3〜3.5倍になると言われており、継手や仕口には 15〜20kN以上の引張耐力が必要になる

⇒必要壁量は満たしているが、変形が不均一で、接合部にかなりシビアな性能が要求される状態

●ケース②
条件;
壁倍率:2(ケース①と同じ)
屋根面床倍率:0.35(同じ)
存在壁量:建築基準法の1.4倍
→ 中間部にも耐力壁を増やしたケース

●何が起きるか:
・中央部分にも耐力壁を足したことで、
変形量も、
梁の軸力も、
ケース①の約7割程度に減少

それでも、まだ水平剛性としては十分とは言えない

外周部の軸力は半分くらいに下がった一方で、中央部の耐力壁が多く荷重を負担するようになり、その部分の継手・仕口には10kN以上の引張耐力が必要

⇒壁を増やすと改善はするが、まだ「均一で十分な剛性」とは言い難い状態

●ケース③
条件;
存在壁量:建築基準法の1.4倍(ケース②と同じ)
壁倍率:2
それに加えて、壁倍率1.5の間仕切壁を中央部に追加
屋根面床倍率:0.35

●何が起きるか:
・間仕切壁自体の剛性は高くない(壁倍率1.5)ものの、
・建物の中央付近に配置することで、
屋根面の変形、
梁に生じる軸力、
の両方をさらに小さくできる

ケース②と比べても、変形がかなり均一で全体的に小さくなる

⇒剛性の低い間仕切壁でも、「どこに置くか」で水平構面の変形をかなり改善できるという例

●ケース④
条件;
存在壁量:建築基準法の1.4倍
壁倍率:4(かなり剛性の高い耐力壁)
屋根面床倍率:0.35(床はあまり固くしていない)

●何が起きるか:
・壁倍率を4にしているので、壁そのものの耐力・剛性は十分
・構面間距離が依然として長いため、屋根の中央部の変形が大きいまま耐力壁の剛性が高いぶん、梁に伝わる軸力も大きくなり、接合部にはより高い引張耐力が要求される

⇒壁を「強く」しても、構面距離が長く、床倍率が低いと、中央が大きくたわみ、梁や接合部に強い力が集まる

●ケース⑤
条件;
存在壁量:建築基準法の1.4倍(ケース④と同じ)
壁倍率:4(同じく高い)
屋根面床倍率:2.0(床をかなり剛にした)

●何が起きるか:
・床倍率を大きくしたことで、屋根・床面の変形はかなり均一で小さい
・床が非常に固いため、耐力壁間でよく力が伝わる一方、梁に生じる軸力は大きくなり、継手・仕口に必要な引張強度も高くなる

⇒変形を均一にすることは達成できたが、そのぶん各部材に流れる軸力は大きいため、接合部設計に十分な配慮が必要なケース


■変形が均一な場合と不均一な場合の違い

最後に、水平構面・屋根面の変形の「質」に注目します。

1⃣変形が「均一」な場合

各耐力壁が同じように力を負担している状態。
結果として、すべての耐力壁が有効に働いている。
⇒ 耐震設計として望ましい状態

2⃣変形が「不均一」な場合

ある部分だけが大きく変形し、別の部分はあまり動かない、という偏った状態。

この場合、

・耐力壁ごとの効き方にムラが出る
・ひどい場合は、耐力壁が本気を出す前に床面が先に壊れる
・梁と柱の接合部が破壊する

などのリスクがある


<まとめ>
(設計上の考え方)

必要壁量を満たしているか、だけでなく、壁倍率・壁量・構面間距離・床倍率のバランスを取ることが重要。

特に、

・耐力壁を外周だけに偏らせない
・建物中央にも間仕切壁や耐力壁を配置して、変形を均一にする
・床倍率を上げれば変形は抑えやすいが、そのぶん接合部に流れる軸力は増える

といったトレードオフを意識しながら、変形をできるだけ均一にする設計を心がけることが、木造の水平構面設計では非常に大切になります。



次回は、床倍率を高める方法について、お話します。

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