NSJ住宅性能研究所

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構造壁シリーズ15

アンカーボルト

まずはポイントから。

・アンカーボルトは、土台がずれたり浮き上がったりするのを止める部材
・同時に、柱の引抜力にも抵抗する
・コンクリート打設中にアンカーボルトをあとから差し込む田植えはNG


■ずれと引抜きの防止

耐力壁に地震や風などの水平力がかかると、耐力壁の端にある柱には引抜力(上向きの力)が生じます。

柱は土台と金物などでしっかりつながっているため、柱だけでなく土台ごと基礎から浮き上がろうとします。

そこで使うのがアンカーボルトです。

・アンカーボルトは、土台と基礎を緊結するボルト
・土台の浮き上がり(引抜き)と水平方向のずれの両方を防ぎます

アンカーボルトに伝わった引抜力は、

土台 → アンカーボルト → 基礎コンクリート → 地盤

という流れで、スムーズに地面まで逃がしてあげる必要があります。

そのために、アンカーボルトには次の2つの性能が必要です。

①ボルト自体の引張耐力
ボルトそのものがちぎれない強さ

②ボルトとコンクリートの付着耐力
コンクリートの中に埋まっている部分で抜けない強さ

特に②の付着耐力は、コンクリートの中に埋まっているボルト表面積に大きく影響します。

つまり、

・埋込み長さが長いほど、
・太いボルトを使うほど、

付着耐力は大きくなります。

たとえば、

直径12mmのアンカーボルトをコンクリートの中に250mm埋め込んだ場合、

付着耐力はおよそ 17.5kN(コンクリート強度 Fc=21 のとき) とされています。

この程度の耐力があれば、一般的な柱脚の引抜きにもある程度対応できます。

それ以上の引抜力が発生する場合は、

・埋込みをもっと深くする
・ボルト径を太くする

などの方法で、必要な耐力を確保します。



■アンカーボルトの施工で注意すること

アンカーボルトは、基礎コンクリート打設時に、あらかじめ所定の位置にセットし、固定治具などを使って、位置がずれないように固定しておきます。

コンクリート打設後に、上からアンカーボルトを差し込む田植えのような施工は、

・コンクリートとの付着が不十分になりやすい
・設計通りの耐力が期待できない

といった問題があるため、厳禁とされています。


■アンカーボルトの設置位置と間隔

アンカーボルトは、耐力壁の近くだけでなく、土台全体を押さえるための部材でもあります。

主な考え方は次のとおりです。

・建物が2階建て以下の場合
→ アンカーボルトの間隔は3m以内を目安

・3階建ての場合
→ アンカーボルトの間隔は2m以内を目安

また、次のような場所には必ずアンカーボルトを設置します。

・土台の端部(角のところなど)
・土台の継手の位置

こうすることで、

土台が基礎の上で「回転したり」「ずれたり」しにくくなり、骨組み全体の安定性が高まります。


■土台と柱の納まりと、抵抗メカニズム

土台と柱の取り合いには、大きく次の2パターンがあります。

●土台通しタイプ
→ 基礎の上に土台をまわし、その上に柱を立てる納まり

●柱勝ちタイプ
→ 柱を直接基礎の上に立て、その間を土台でつなぐ納まり

それぞれ、鉛直荷重と水平荷重に対する性状が少し異なります。


●土台通しの抵抗メカニズム

土台通しでは、

・常時の鉛直荷重(建物の重さ)
→ 土台を介して、基礎へ伝達される

・水平力や引抜力
→ 柱 ⇒ 土台 ⇒ アンカーボルト ⇒ 基礎 ⇒ 地盤

という流れで伝達されます。

このとき、抵抗要素は例えば次のようなものです。

・柱と土台の接合部が引抜力に抵抗
・アンカーボルトが引張りで抵抗
・座金が土台へめり込むことで抵抗
・アンカーボルトが土台にめり込む/せん断されることで抵抗
・アンカーボルトとコンクリートの付着による抵抗
・圧縮側では、土台のめり込みや、土台と基礎の間の摩擦力も水平力に対して働く

土台通しは、繰り返しの水平荷重を受けたときにも、柱と土台の接合部にガタが生じにくく、耐力壁の性能が安定しやすいと言われます。

●柱勝ちの抵抗メカニズム

柱勝ちでは、柱が直接基礎に載るため、常時の鉛直荷重に対しては有利です(木材の繊維方向の部材がそのまま基礎に載るため、大きな圧縮荷重を負担しやすい)

一方で、水平力や引抜きに対しては、次のような点に注意が必要です。

柱と基礎の接合部では、

・柱脚のめり込み
・ボルトなどの引張・せん断・付着

によって引抜力や水平力に抵抗します。

しかし、繰り返しの水平荷重を受けると、柱と土台の接合部に隙間ができやすく、ガタつきやすいといった欠点があります。

そのため、耐力壁が取り付く部分では、単純に柱勝ちの方が柱の引抜きに有利と考えるだけでなく、耐力壁の性能を長期的に安定させるという観点から、土台通しの方が有利になる場合も多い、と理解しておく必要があります。


<まとめ>

・アンカーボルトは、土台の浮き上がりとずれを防ぐ重要な部材
・引抜力に対しては、
◎ボルト自体の強さ(引張耐力)
◎コンクリートとの付着(埋込み長さ・径)
がポイント
・施工時の田植えは付着不足を招くのでNG
・土台の端部、継手位置、一定間隔ごとにアンカーボルトを配置し、
骨組み全体を基礎にしっかり固定する
・土台通し・柱勝ちそれぞれの力の流れとメリット、弱点を理解して、
耐力壁の性能が安定する納まりを選ぶことが大切

力がどう流れて、どこで止めているか、を追っていくと、アンカーボルトや納まりの考え方がかなりスッキリ整理できると思います。



次回は、大壁と真壁について、お話します。

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