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■なぜ「柱の引抜き」を気にするのか 耐力壁に地震や風などの水平力がかかると、壁の端部にある柱には、上向きに柱を引き抜こうとする力(引抜力)が生じます。 木造は鉄筋コンクリートに比べて軽く・柔らかいので、 ・柱が土台や梁からスポッと抜けないように ・接合部でしっかり力を伝えられるように 柱と土台・梁の接合方法がとても重要になります。 接合方法は大きく分けて次の3タイプです。 ①接合金物を使う方法 ②ボルトを使う方法 ③木材(ホゾ・貫など)を使う方法 共通のポイントは、 柱の芯(軸)に近い位置で引き寄せるほど、効率よく引抜力に抵抗できる ということです。
① 接合金物を使用する方法 〇概要 柱と土台・梁の側面に、ホールダウン金物・VP金物・コーナー金物などを取り付ける方法です。 このときの主な頑張りどころは、 ・釘やビスのせん断力(切ろうとする力に対する強さ) ・釘やビスの引抜耐力(抜こうとする力に対する強さ) ・木材へのめり込みに対する耐力 などです。 柱が引き抜かれるとき、釘やビスが木材をむしり取るように壊れながら抵抗するイメージです。 〇代表的な金物 ●ホールダウン金物 ・柱と土台・基礎を、アンカーボルト+金物でガッチリ結ぶタイプ ・抵抗する要素: ◎アンカーボルトやラグスクリューの引張耐力 ◎座金のめり込み耐力 ◎柱や土台のせん断・めり込み など ●VP金物 ・柱の側面から、土台や基礎に向けて釘やビスで固定するタイプ ・主役は、釘やビスのせん断力 ●コーナー金物 ・柱と土台のコーナー部分などで使うL字金物 ・釘・ビスの引抜きとせん断の両方で引抜力に抵抗 ② ボルトを使用する方法 〇概要 通しボルト・軸ボルト・ホゾパイプ・Dボルトなどの棒鋼(ボルト)で 柱と土台・梁を一体化させる方法です。 とくに、 柱の軸芯(断面の中心付近)を通るようにボルトを配置すると、応力の中心で引き寄せることができ、理論的にとても合理的 とされています。 ●通しボルト ・基礎付近から、下の梁 → 柱 → 上の梁まで、一本のボルトを通すイメージ ・梁をボルトで押さえ込むことで、梁や柱が浮き上がるのを防ぐ 例: 基礎 → 土台 → 胴差し(中間の梁) → 上の梁 まで全ねじボルトを通し、座金とナットで締め付ける構成など 軸ボルト・ホゾパイプ・Dボルト、 これらは、いずれも柱の芯に近いところで柱と土台・梁を引き寄せるタイプです。 ●軸ボルト ・柱の中に箱状の穴をあけてボルトを通す方法 ・ただし、穴を少し大きめにあけるため、締めるまで「あそび(初期ガタ)」が出やすいのが弱点 ●ホゾパイプ ・柱の中に金属パイプ(ホゾパイプ)を入れ、その中をボルトが通るタイプ ・パイプと柱の間に隙間が少ないので、ガタが少なく、引き寄せ効果が大きい ●Dボルト ・柱の中に専用金物をセットし、皿ボルトなどで土台・梁を柱側に引き寄せるタイプ ・座金のめり込みや、柱の圧縮・せん断などの組み合わせで引抜きに抵抗します。 これらのタイプは、端距離(ボルト穴の端から材端までの距離)を十分に確保して、木が割れないようにディテールを決めることが重要です。 ③ 木材を使用する方法(ホゾ・貫など) 金物を使わず、木材同士の組み方だけで引抜きに抵抗する方法です。 代表的なものは、 ●長ホゾ差し込栓打ち ●雇いホゾ差し込栓打ち ●竪貫(たてぬき) ●地獄ホゾ などです。 ●長ホゾ差し込栓打ち ・柱に深いホゾ(長ホゾ)を設け、土台や梁に差し込んだうえで込み栓(木製のクサビ状ピン)を打ち込んで抜けないようにする方法 ・耐力に効いてくる要素: ◎柱やホゾ、込み栓の樹種(強度) ◎ホゾの厚さ・出っ張り長さ ◎込み栓の位置や径 ホゾがせん断されたり、込み栓がせん断されたりしながら引抜力に抵抗します。 ●雇いホゾ差し込栓打ち ・土台や梁とは別に、「雇いホゾ」という部材をかませて接合する方法 ・単純な引張だけなら、長ホゾと似た破壊性状(ホゾ抜け・ホゾや込み栓のせん断など)ですが、 ・実際には、耐力壁が菱形に変形すると水平力+引張力が同時にかかり、 ◎ホゾや柱の割裂き(割れ)が起こる ◎込み栓のせん断破壊 ◎ホゾ抜け などの破壊が組み合わさって起こりやすくなります。 そのため、割裂を起こさないようなディテール・寸法計画が重要です。 ●竪貫(たてぬき) ・隅柱などで込み栓を打ちにくい場合、 柱のすぐ脇に縦方向の貫材を立て、そこに込み栓を打つ方法です ・これにより、柱と土台・梁を木材+込み栓で締め付けて、引抜力に抵抗します ●地獄ホゾ ・ホゾの先端に楔を打ち込んで扇形に開かせることで、土台との摩擦力とめり込みで抜けにくくする方法です。 ・ただし、 ◎木材の乾燥収縮 ◎施工精度のバラツキ が大きく影響し、耐力を安定して評価しにくいという問題があります。 <まとめ> ●木造の柱は、耐力壁に水平力がかかると引き抜かれようとする力を受ける ●そのため、 ・接合金物 ・ボルト ・木組み(ホゾ・貫・込み栓など) をうまく組み合わせて、柱が抜けないように接合部を設計することが重要 ●特に、柱の芯に近い位置で引き寄せる接合ほど、効率よく引抜力に抵抗できる こんな観点で読むと、どの接合ディテールが、どんな力でどのように耐えているか、がイメージしやすくなります。
次回は、柱頭柱脚について、お話します。
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