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※まず最初に、 ・どこまでの重さを、その階の地震力として見るか ・重さに応じて、どれくらい耐力壁が必要か(必要壁量) は、2025年4月以降は実際の荷重に合わせてちゃんと計算しようね、という方向にルールがアップデート(法改正)されていますので押さえておいてください。 ■地震力に対する必要壁量 各階の地震に対する必要壁量は、その階の階高の半分より上に載っている重さをもとに、壁量計算用の床面積を決めて算定します。 ■建物重量と耐力壁の配置 地震のとき、建物にかかる横向きの力(地震力)は、建物の重さに比例します。 ここでいうその階の重さは、構造的には、 その階の階高の半分から上にある部分の重量 と考えます。 ・2階建ての2階なら、 → 「屋根 + 2階の壁の上半分」の重さ ・同じ建物の1階なら、 → 「屋根 + 2階の壁 + 2階床 + 1階の壁の上半分」の重さ が、それぞれその階が支える重さです。 そのため、本来は、各階について、 ・その階が支える建物重量を出す ・そこから地震力を計算する ・地震力に見合うように耐力壁の量と配置を決める という流れになります。
■2025年4月以降の「必要壁量」の考え方 ●以前の考え方(〜2025年3月) これまでは、木造2階建て程度の住宅では、 ・瓦葺きなどの重い屋根 ・スレートや金属板などの軽い屋根 という2区分だけで、重い建物/軽い建物に分けて、 建築基準法施行令46条の表から、 床1㎡あたり○cmの耐力壁が必要 という値を選ぶだけの簡易な壁量計算が主流でした。 ●改正後(2025年4月〜) 近年は、 ・厚い断熱材 ・重い外壁材 ・太陽光パネル などによって、同じ「軽い屋根」のカテゴリでも建物重量に差が大きくなってきました。 このため、2025年4月施行の改正では、軽い/重い、の2区分の表は廃止され、実際の建物重量に応じて必要壁量を決める仕組みに見直されています。 改正後、令46条の、地震に対する必要壁量は、おおまかに次のどれかで確認します。 ・方法①:算定式で求める(荷重から実態に合わせて計算) ・方法②:国交省・住宅・木材技術センター等の「早見表」「Excelツール」を使う ・方法③:許容応力度計算などの構造計算で安全性を確認し、壁量計算そのものを省略 国土交通省の考えとしては、実務で木造2階建て住宅を手掛ける場合は、ほとんどが②の早見表 or 表計算ツールを使うイメージだと思われます。 ●算定式のざっくりイメージ 方法①で使う「床面積1㎡あたりの必要壁量 Lw(cm/㎡)」は、 国交省の資料では次の式で定義されています。 Lw = (Ai × Co × Σwi) / (0.0196 × Afi) Lw:床1㎡あたりの必要壁量(cm/㎡) Ai:層せん断力分布係数(上階ほど大きい) Co:標準せん断力係数 (通常は 0.2、地盤が著しく軟弱な区域(令88条2項)では 0.3) Σwi:その階が地震時に負担する固定荷重+積載荷重の合計(kN) Afi:その階の床面積(㎡) ここで Σwi を出すときに、 階高の半分より上に載っている部分の重量を、その階が負担する という考え方が入っています。 なお、Co を0.2→0.3にすると必要壁量は約1.5倍になるので、旧基準で、軟弱地盤では1.5倍にする、と書かれていた内容が、改正後は Co の値で表現されるようになったと理解するとスッキリします。 ●存在壁量側の主な変更点 必要壁量の基準だけでなく、「存在壁量」の見方も改正されています。 ・垂れ壁、腰壁などの準耐力壁も、一定の条件を満たせば存在壁量に算入可 ・複数の耐力壁を組み合わせたときの壁倍率の上限が 5倍 → 7倍に(大臣認定品は別扱い) …といった変更が入ったことで、重い外皮・高性能住宅でも、実態に合った壁量設計がしやすくなった、というイメージです。 ■小屋裏・バルコニーがあるときの床面積の割増し 小屋裏の物置や、長く張り出した庇・バルコニーがあると、その分だけ上に載る荷重が増えます。 この増加分を床面積に置き換えて割り増しし、壁量計算に反映させるのが基本的な考え方です。 ●小屋裏物置の扱い 国交省の解説では、小屋裏物置の床面積が直下階床面積の1/8を超える場合、次の式で求めた面積 a を、1階・2階の床面積に加算することになっています。 a = A × h / 2.1 a:各階の床面積に加える面積(㎡) A:小屋裏物置等の水平投影面積(㎡) h:小屋裏物置の平均天井高さ(m) ポイントは以下のとおりです。 小屋裏物置がかなり小さい(直下階の1/8以下)なら、 → 構造的な影響は小さいので a=0 としてよい それ以上に大きくなると、たとえ階としてはカウントしなくても、 → 「上に載る重さ」としては見逃さないでね、という扱いになります 2025年の構造関係告示の見直しでは、この小屋裏物置に関する規定(旧・告示1351号)は、他の軸組基準と合わせて、告示1100号の中に統合される方向が示されています。 ただし、面積加算の基本式 a = A×h/2.1 自体は、最新の国交省資料や2025年対応の解説サイトでもそのまま使われており、実務上は、従来の1351号の式を、告示1100号に引き継いだイメージで理解しておけばOKです。 ●庇(ひさし)の出の考え方 庇や片持ち屋根の張り出し部分も、長くなるほど荷重が増えます。 実務でよく使われる目安は、 ・はね出し長さ L が 1P(約910mm)を超える庇について →庇の面積のざっくり「半分」程度(L/2 相当)を、1階・2階の床面積に加えて壁量計算に反映させる ここで、 L:庇のはね出し長さ(m) P:モジュール(一般に 1P = 910mm) また、庇の上に、 ・モルタル塗りの仕上げ ・タイル貼り など 重い仕上げが載る場合には、安全側に見るために 庇の全体面積を床面積に算入する、という運用もあります。 庇・バルコニーの扱いは、自治体ごとの運用差が大きいので、実務では必ず所管行政庁の建築基準法取扱い要領等を確認しておく前提で、 ここでは、考え方のイメージとして押さえておくとよいと思います。 ●すのこ程度のバルコニー 床がスチールグレーチングや木製すのこなどの軽いバルコニーも、基本は庇と同じ考え方です。 ・はね出し長さ L が 1P を超える部分 → L/2 程度を床面積に加算 ・仕上げがモルタルなどで重い → L に関係なく全体面積を算入 といった形で、少し安全側に割増ししておくのが一般的です。 ■1階の必要壁量と総2階・セットバック(四分割法と偏心率法の違いも絡めて) ●基準法レベル(四分割法)の前提 従来の建築基準法レベルの壁量計算は、もともと、 1階と2階の床面積がほぼ同じ(総2階)の木造2階建て を想定して作られてきました。そのため、 2階が大きくセットバックしているプランでも、総2階を前提とした必要壁量の表をそのまま使うと、実際の地震力よりやや多めの必要壁量が出ることがあります。 (安全側だけれど、設計上は少し厳しめ、というイメージ) さらに、壁のバランスをざっくり見る四分割法では、平面を X・Y方向に4つに分割して、それぞれのブロックごとに、 ・存在壁量(耐力壁の長さ×倍率)がその方向の必要壁量の一定割合以上あるか を確認します。 2025年の改正では、この四分割法についても、 準耐力壁の占める比率が各階・各方向とも必要壁量の1/2以下 → 四分割法では準耐力壁を含めず、耐力壁のみでバランスをチェック どこか一つでもその比率が1/2を超える → その方向では準耐力壁も含めて四分割法で検証 というルールが追加されています。
●偏心率法(品確法ルート)の考え方 これに対して、偏心率法(令82条の6第2号ロ)や品確法(住宅性能表示)の耐震等級計算では、 ・1階と2階の床面積比(2階床面積/1階床面積) ・各階の重量分布 ・壁・柱の剛性分布 などから偏心率(重心と剛心のズレ)を計算して、 ねじれが大きすぎないかをチェックします。 このとき使う早見表や支援ツールは、最初から、 ・2階床面積/1階床面積 の比 ・階高 ・屋根、外壁、太陽光パネルの有無 などを入力する前提になっているので、2階がセットバックしている建物では、その分1階の必要壁量も実情に近い値に補正されます。 品確法ルートでは、さらに、 ・地震、風、積雪に対する必要壁量 ・耐力壁+条件を満たす準耐力壁を含めた存在壁量 を比較し、耐震等級2・3を判定します。 そのため、 ・総2階プランでは、 → 基準法の壁量計算と品確法の結果は近くなりやすい ・2階セットバックプランでは、 → 品確法+偏心率法のほうが、実際の重さと剛性分布に近い評価になる というイメージで捉えておくと、両者の違いが分かりやすいと思います。 <まとめ> ●地震力は、その階の階高の真ん中より上にある重さに比例する ●2025年4月以降は、 ・軽い屋根/重い屋根の2区分ではなく、 ・実際の屋根や外壁、太陽光パネルなどの荷重から、必要壁量を計算する方式に変わった ●小屋裏物置や大きな庇・バルコニーは、 ・小さければ無視してOK ・一定以上大きくなれば、床面積に割増して上に載る荷重として見込む ●壁の配置バランスのチェックには、 ・四分割法(ざっくりチェック) ・偏心率法(重心と剛心のズレを計算) の2つがあり、セットバックなど平面形状が複雑な建物ほど、偏心率法+品確法ルートのほうが実情に近い評価になる。 こんな感じで押さえておくと、必要壁量って何をしている計算なのか?がイメージしやすくなると思います。 次回は、必要壁量(風圧力)について、お話します。
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