NSJ住宅性能研究所

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構造壁シリーズ8

壁倍率

■そもそも「壁倍率」とは?

壁倍率とは、耐力壁が、横からどれくらいの力(地震力など)に耐えられるか、を表す強さの目安です。

数値が大きいほど、地震などの揺れに強い壁という意味になります。

単位は kN/m(キロニュートン毎メートル) で、ざっくり言うと、1mあたり何kgの横力に耐えられるか、を示しています。


■壁倍率1の具体的な定義

壁倍率1とは、次の条件を満たす壁のことです。

・壁の長さ:1m
・水平力:1.96kN(約200kg) を壁長にかける
・層間変形角:1/120

ここでいう層間変形角1/120とは、階高hに対して、上の階が h/120 だけ横にずれる程度の変形、という意味です。

例:階高 h = 2,400mm なら
横方向のずれ δ = 2,400 ÷ 120 = 20mm

つまり、

長さ1mの壁に200kgの横力をかけたときに、変形が1/120になる壁
= 壁倍率1の壁

と定義されています。


■壁倍率が2・3・5ならどれくらい強い?

壁倍率が大きくなるほど、比例して耐えられる水平力も増えます。

・壁倍率1 → 1.96kN/m(約200kg/m)
・壁倍率2 → 3.92kN/m(約400kg/m)
・壁倍率3 → 5.88kN/m(約600kg/m)
・壁倍率4 → 7.84kN/m(約800kg/m)
・壁倍率5 → 9.80kN/m(約1,000kg/m ≒ 1t/m)

建築基準法では、木造の接合方法などを考慮して、壁倍率の上限は「7.0」と決められています(※2025年4月法改正後)


■中地震(震度5弱程度)と層間変形角1/120

層間変形角 1/120 は、中地震(だいたい震度5弱程度)で許容される変形の目安です。

したがって、現在の壁量計算は、中地震が来たときの変形が基準になっています。

・中地震時に、建物が壊れず・変形し過ぎないか
・そのときの壁の強さを、壁倍率を使って計算・チェックしている、

というイメージです。


■筋かいの壁倍率と「片掛け」「たすき掛け」

●たすき掛け筋かいの考え方

筋かい(ブレース)をたすき掛け(X字)に入れたときの壁の強さを、試験で測った結果から 「壁倍率○倍」 と決めています。

このときの壁倍率は、

引張筋かいの耐力 + 圧縮筋かいの耐力
= たすき掛け筋かい1組分の耐力

として評価されています。

●片掛け筋かいは「たすき掛けの半分」

現実の木造住宅では、筋かいを1本だけ入れる 片掛け のケースも多いです。

この場合の壁倍率は、

片掛け筋かいの壁倍率 = たすき掛けの壁倍率 ÷ 2

という扱いになっています。

つまり、圧縮状態と引張状態を平均した1本あたりの強さとみなしているわけです。


■圧縮筋かいと引張筋かいの性質の違い

ただし、ここで注意が必要です。

圧縮筋かい:木材が押されて働く
→ 一般に剛性が高く、変形しにくい(強い)

引張筋かい:木材が引っ張られて働く
→ 一般に剛性が低く、変形しやすい(弱い)

同じ断面寸法でも、圧縮と引張では、効き方の性質が違うことを、設計時に意識しておく必要があります。


■筋かいの配置と左右バランス

もし、1つの軸組の中で筋かいを 全部同じ向きにだけ 入れたとします。

すると、

・左から押されたとき:筋かいが圧縮側になり、強い
・右から押されたとき:筋かいが引張側になり、弱い

というように、揺れの方向によって強さが変わってしまうことになります。

地震では、建物は左右に何度も揺すられます。

そのため、

・同じ階
・同じ軸組の中

では、

筋かいを一対(ハの字やV字)になるように入れて、左右どちらに揺すられても同じくらい強くなるようにする

という考え方が重要です。


<まとめ>

・壁倍率1を一言でいうと?

壁倍率1 =
1mの壁に200kgの横力をかけたとき、層間変形角1/120で耐えられる壁

・壁倍率が大きいほど、1mあたりに耐えられる水平力が比例して大きくなる

・木造の壁倍率は、建築基準法上 最大7.0まで

・筋かいの壁倍率は、たすき掛けの試験結果をもとに、「片掛け=その半分」として評価されている

・地震は左右に揺れるので、筋かいは一対になるように配置して、どちら向きでも同じように耐えられるようにする

このあたりを押さえておくと、壁量計算や耐力壁の設計で、なぜこの数字なのか、がだいぶスッキリ理解できるはずです。



次回は、壁量計算について、お話します。

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