NSJ住宅性能研究所

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構造壁シリーズ2

耐力壁の形式

耐力壁には3つの抵抗のしかた(形式)があります。

どの形式でも、対角線方向のかたさと、留め付け(接合)の仕方がとても重要です。

■そもそも耐力壁って何をしている?

マッチ箱をイメージしてください。

外箱だけだと、指でつまんで押すと簡単につぶれますが、中箱が入ると急につぶれにくくなりますよね。

建物も同じで、柱と梁だけの骨組みだと、地震や風などの水平力がかかったときに、少しの力でも大きく変形して、変形が進むと倒れてしまいます。

そこで、変形を小さく抑えるために入れるのが耐力壁です。
耐力壁には、考え方として大きく3つのタイプがあります。


■3つの耐力壁の形式

① 軸力抵抗型(じくりょく ていこうがた)

筋かいや鋼製ブレースなど、斜めに入った線材で力に抵抗するタイプです。

斜め材に「引張」または「圧縮」の軸力が働いて、水平力に抵抗します。

ポイント:
・筋かいの留め付け方(接合部の納まり)で耐力が大きく変わる
・筋かいの板厚・寸法も耐力に影響する

② せん断抵抗型(せんだん ていこうがた)

壁全体が菱形に変形しながら、面として水平力に抵抗するタイプです。

例:
・構造用合板や石膏ボードを柱・梁に釘で打ち付けた面材耐力壁
・土塗り壁・モルタル塗り壁などの湿式(現場で塗る)仕上げの壁

ポイント:
・釘の太さや間隔が耐力に大きな影響を与える
・面材の厚みや材料の強度も、耐力にある程度影響する
・塗り壁では塗り厚が厚いほど、一般に耐力が高くなる

③ 曲げ抵抗型(まげ ていこうがた)

壁に水平力がかかると、柱や梁がS字状に曲がる(曲げ変形する)ことで抵抗するタイプです。

例:
・貫(ぬき)を通した壁
・面格子(木の格子)
・ラーメン架構(柱・梁が剛接合されたフレーム)

ポイント:
・貫の幅が大きいほど耐力に効きやすい
・貫のせい(高さ方向の寸法)も耐力に多少影響する


■耐力壁に水平力がかかったときの変形のイメージ

耐力壁に地震などの水平力が作用すると、壁は少したわみながら、菱形(ひし形)っぽく変形しようとします。

このとき、壁の対角線方向で次の2つが生じます。

1⃣伸びる対角線(伸長側):引っ張られる方向
2⃣縮む対角線(収縮側):圧縮される方向


1⃣伸長側(引張側)の対角線で起きること

・引張力が働く
・筋かいなどの部材の端部の留め付けが弱いと、接合部から部材が抜けやすくなる
・逆に、しっかり固定されていると、部材そのものが伸びて細くなるような形で抵抗する

→ つまり、引張側では「接合部の耐力」がとても重要です。


2⃣収縮側(圧縮側)の対角線で起きること

・圧縮力が働く
・圧縮されることで、部材の中央が面外方向に膨らむ(座屈する)
・部材そのものがつぶれるなどの現象が起きる

土壁のような湿式壁では、この圧縮と引張が交互にかかることで、斜め方向にひび割れが入ることが多いです。
(対角線方向に「圧縮・引張・圧縮・引張」が並ぶイメージ)

→ 下地材の断面寸法や間隔が、(筋かいなどの)座屈を防ぐうえで重要になります。


■壁が かたい か やわらかい かで変わる壊れ方

耐力壁の剛性(かたさ)によって、どこが壊れやすいかが変わります。

① 剛性の高い耐力壁(とてもかたい壁)

・壁自体はあまり変形しない
・その代わりに、柱脚(柱の根元)が損傷しやすい
・壁材の損傷は小さく済むことが多い

② 剛性の低い耐力壁(やわらかい壁)

・壁材が大きく変形する
・その結果、壁材のひび割れや破損が起きやすい
・柱脚の損傷は比較的軽く済むことが多い


■剛強すぎる壁で起きること(浮上り)

壁があまりにも剛強で、菱形にほとんど変形しない場合は、別の問題が出ます。

・壁全体が回転するように動く
・その結果、柱脚や基礎の部分で浮上り(引張による持ち上がり)が生じることがある

■土壁のひび割れメカニズム

土壁に水平力が作用すると、

・壁全体が菱形に変形しようとする
・対角線方向に「圧縮・引張・圧縮・引張」と力が分布する

その結果、引張側に沿って斜め方向のひび割れが入る

→ 土壁では、「どの方向にひび割れが入りやすいか」は、対角線方向の引張と圧縮の分布から説明できます。


<まとめ>

引張側:浮上りや接合部の破壊、ひび割れ
圧縮側:座屈やつぶれ、ひび割れ

というように、対角線方向の応力状態を意識することが、耐力壁設計のポイントになります。

・耐力壁には3つの形式があること
・対角線方向の引張・圧縮がキモであること
・剛性の高さによって壊れ方が変わること



次回は、筋かいの抵抗について、お話します。

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