NSJ住宅性能研究所

MENU 検索

軸組と接合部シリーズ23

接合金物

まずは結論から。

試験で求めた接合耐力は、次の2つのうち小さい方で決まります。

・最大耐力Pmaxに安全率2/3を掛けた値
・降伏耐力 Py(弾性から塑性へ移る境目の耐力)

いずれかにばらつき係数(製品間の差を見込む係数)を掛けて短期許容耐力になります。

長期荷重に対する許容耐力(梁端の鉛直支持など)は、さらに1.1/2 を掛けます。


■何をどうやって試験するのか

接合金物(梁と柱をつなぐ金物、柱脚金物、継手金物など)の許容耐力は、規定の方法で実験して決める。

※基準は「木造軸組工法住宅の許容応力度設計((財)日本住宅・木材技術センター)」

① 梁端部の鉛直支持力(梁端金物)

狙い:
鉛直荷重に対して接合部がどれだけ耐えるか

方法:
スパンを約910 mmの短スパンにして上から荷重をかけ、梁の下がり量δを測る

短スパンにする理由:
曲げがほぼ出ない条件にして、せん断(接合部の純粋なせん断)だけを見たいため

取り付け位置:
柱に付くタイプでも、梁同士でも、基本は同様

② 耐力壁まわりの柱頭・柱脚(引抜き)

狙い:
地震や風で柱が引き抜かれる力にどれだけ耐えるか

方法:
土台を試験機に固定し、柱を鉛直上向きに引張って、柱と土台の離れδを測る

例:
柱芯から約400mm位置に荷重点を取るなど

③ 水平構面まわりの仕口・継手(外周引張)

狙い:
床や屋根の面が地震時に引っ張られるとき、外周の仕口・継手が耐える力

方法:
・梁どうしの仕口:①と同様に荷重をかけ、浮き上がり/離れδを測る
・通し柱の仕口・継手:2材を互いに引張し、離れδを測る

目安として荷重点を約150mm離して設定するケースがある。


■グラフデータの読み方(荷重-変形曲線)

縦軸=荷重P、横軸=変形δとして、
①は下がり量、②③は離れ量を変形として記録。

通常は破壊まで加力するが、δ=30mm を超えたら、30mmまでの曲線で評価を打ち切る(極端な大変形は設計に使わない考え方)


■耐力の決め方(式と意味)

・最大耐力に安全率を掛けた値2/3Pmax
実験のピーク値は「たまたま高い」ことがあるため、2/3で安全を見る。

・降伏耐力Py
弾性域→塑性域に移る境の代表値。

実務では安全弾塑性モデルなどで、試験曲線と同面積の台形を当てはめ、その高さをPyとみなす(エネルギー等価のイメージ)

→ 接合耐力(短期)は小さい方×ばらつき係数

・短期許容耐力
  
短期許容耐力=ばらつき係数×min(2/3PmaxまたはPy)
(※2/3PmaxかPyのいずれか小さい値)

→ 長期荷重に使うときはさらに下げる(クリープ等を考慮)

・長期許容耐力
  
長期許容耐力=短期許容耐力×1.1/2

例:梁端部の鉛直支持力など、長くかかり続ける荷重に適用。


■具体例(数値で感覚をつかむ)

試験結果:

・Pmax=12kN
・Py=7.5kN
・ばらつき係数 = 0.85

計算:

・2/3Pmax=8.0kN
・小さい方はmin(8.0,7.5)=7.5kN
・短期許容耐力=0.85×7.5=6.375kN
・長期許容耐力=6.375×1.1/2≈3.51kN


■用語解説

●最大耐力Pmax
:試験中に到達した最大の荷重

●降伏耐力Py
:弾性から塑性へ移る代表的な境界荷重。モデル化して求める

●ばらつき係数:
個体差・施工差など不確かさを見込んで低めに調整する係数

●短期/長期:

・短期=地震・風など短時間の大きな荷重
・長期=自重・積載など長くかかる荷重(クリープ影響あり)


■覚えておくと便利なポイント

・「2/3 × Pmax」と「Py」の競合:
ピーク値の安全マージン vs. 変形挙動に基づく実質的な耐力。
小さい方を採用。

・30 mm ルール:
過大変形は設計に使わない。
実用域で評価。

・長期用の追加低減:
長期荷重はさらに厳しめに見積もる。



次回は、手刻みとプレカットについて、お話します。

▲このページのTOPへ