NSJ住宅性能研究所

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県産木材シリーズ9

木取りと製材

1. 森から製品までの全体像

■背景

輸入木材の自由化以降、海外材の価格・品質に押され、収益化に時間がかかる山林は放置されがちに。

一方で、先祖代々きちんと管理されたサンブスギ林では、植栽本数をあえて多くして細く・長く育て、天然の絞り丸太や化粧材向けの良材が生まれています。

■現場の流れ

間伐 → 枝払い・集積 → 搬出(山から林道へ) → 積み込み → 土場(丸太置き場)へ → 選木・評価 → 製材・乾燥 → 製品
※千葉は地形・道路事情で運搬コストに限界が出やすいのが実情。


2. 土場で見るポイントと評価のしかた

はい積み(径級を揃えて積む)で丸太を並べ、木口(切り口)と通り(真っ直ぐさ)を確認。ここで購入価格がほぼ決まる。

例:
鴨川市の間伐材や、清澄山系のスギ、嶺岡県有林(大正期植栽)のヒノキなど、地域ごとに特性がある。

青変(青く変色)は見た目の問題が主だが、腐朽は内部まで進んでいる可能性があるため注意して見極める。


3. スギをマグロに例えるとわかりやすい

芯(心材)=赤身、中間=中トロ、外側(辺材)=大トロ。
同心円状に部位ごとで性質や用途が違うイメージ。

化粧材や造作材には大径木の元丸太が有利。


4. 「板目」と「柾目」を一度で理解

■定義(超重要)

・柾目(まさめ):年輪が板の面に対して直角(90°に近い)に出る木取り。目がまっすぐで反りにくく寸法安定。
・板目(いため):年輪が板の面にほぼ平行(0~45°)に出る木取り。木目が山形や曲線に見える。歩留まりは良いが反りやすい。

■敷居(ふすま下)の例

一般に柾目材が好まれる(反りにくい)

柾目で120mm幅が欲しい → 丸太から厚さを多めに製材し、45mm厚に落として仕上げる。

板目で120mm幅が欲しい → まず45mm厚で製材し、幅を120mmに落として仕上げる。

どの向きできれいな木目と性能を出すかで、挽き方の順番が変わるという考え方。


5. 木取りの基本手順(応力を抜きながら挽く)

・木表(丸太の外側に近い面)を上にして挽き始める
・木裏(中心側)を挽く
・木横(側面)を両側から挽く
・再び木裏側から進め、反りや割れの兆候を見ながら最良の取り都合に調整
→ 経験と勘がモノを言う工程。内部応力を上手に解放しつつ、狙いの材を確保する。


6. 乾燥と変形の基礎

・柾目材:主に収縮。反りにくい。
・板目材:木表側へ反りやすく、収縮も大きい。
・四方柾:四辺が柾目になるため、菱形変形が出やすい。
・芯持ち材:外側が均等収縮しやすい。
・アテ(偏った成長応力部分):反り・ねじれ・割れの原因になりやすいので木取りで回避・最小化する。


7. 欲しい柱サイズから適寸丸太を逆算

使う部位(例:真壁の化粧柱)によって、必要な角材寸法に見合う直径の丸太を選ぶ。

例:
30cm角が欲しければ、直径 約1尺4寸1分4厘(約43cm)の丸太が目安。
→ 用途と仕上がり寸法から丸太径級を決めるのが鉄則。


8. 伐採と乾燥の昔ながらの知恵(理にかなっている)

落葉が始まる秋は伐採に向く(樹内の水分が減りやすい)。

伐採後は枝葉をしばらく付けたまま置き、樹皮も剥げれば乾きやすく虫も付きにくい。

枝葉が枯れたら造材して搬出する。

北風(ならい)が吹いたら早めに撤収(房総は南風に強いが北風に弱いため、倒木リスクに注意)

※台風15号・19号の際は北風で被害が拡大。


9. 千葉の材で価値を出すコツ

原木の質で他県に見劣りする場面があっても、木取り次第で化粧材や造作材としての付加価値を高められる。

実例:
北総のサンブスギで赤身無地の柾・5寸幅が取れたケースは非常に希少。

素材生産専業ではない千葉県森林組合安房事業所の森林整備由来でも、偶然に優良材が出ることがある。

製材技師として胸を張れる製品に仕上がる。


<用語>

・木表(きおもて):年輪の外側(樹皮側)に近い面
・木裏(きうら):中心(芯)側に近い面
・木口(きぐち):丸太や板の切り口(年輪が見える面)
・木横(きよこ):木表・木裏に対しての側面
・土場:丸太を一時集積・選別する場所
・赤身(心材)/白太(辺材):
中心側が赤身、外側が白太。性質と用途が異なる。


<まとめ>

用途(どこにどう使うか)→必要寸法→丸太径級→木取りの順で考えると、判断がブレません。

柾目は安定、板目は歩留まり。

反り・割れは乾燥と応力解放の設計で最小化。

千葉の材でも「選木×木取り×乾燥」価値を作れる。

現場の観察と小さな工夫の積み重ねが、最終品質を大きく左右します。



次回は、県産材と建築士について、お話します。

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