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今後、日本の空き家は「うまく活用される空き家」と、「放置されて問題になる空き家」に分かれていくと考えられます。 特に問題のある空き家への対応が、これからの社会課題としてますます目立ってくるでしょう。 これまでは「建物を持つこと=価値」でしたが、これからは「どう使うか・活かすか」が重要な価値になります。 つまり、建物の“利用価値”が所有価値よりも重視される時代になってきているのです。 このような流れの中で、建築士の仕事も大きく変わっていきます。 新しい建物を設計・建築するだけでなく、すでにある建物(ストック)をどのように活用するかを考えることが、建築士に求められる役割になります。
■「利用の構想力」がカギになる 既存建物を活用するには、「建物をどう使えば価値が生まれるか」を考える「利用の構想力」が必要です。 ただ建物を設計するだけでなく、周辺のさまざまな知識を活かして総合的に考える力です。 たとえば、建築の仕事の周辺には、不動産や権利、資産価値などの分野も関わってきます。 中城康彦氏によると、「利用の構想力」を持った専門家になるには、以下のようなスキルが必要だとされています。 ・土地や建物についてのハード的な知識(構造、法律など) ・権利関係や資産価値についてのソフトな知識(法務、経済) ・基本構想の立案 ・建物の価格評価 ・事業の収支計画 ・投資としての価値分析 所有者の変更や「使う人」と「持っている人」が違うケースも考慮しながら、経済的・法律的に支援することが大切です。 ■法的な課題と、建築士のマネジメント力 多くの既存の建物は、建てられた当時の建築基準法には合っていましたが、その後の法改正によって、今では基準に合っていない「既存不適格建築物」になっているケースが多くあります。 こうした建物を増築・改修するときは、現在の基準に適合させる必要があります。 そうでなければ金融機関からの融資が受けられないこともあります。 そのため、建築士には「どのように基準を満たすか」「どのように価値を高めるか」を計画・調整するマネジメント能力が求められるようになってきています。 建築基準法などの法律や制度そのものを、これからの時代に合ったものに再構築していくことも、社会的に求められています。 ■建築士に求められるパラダイムシフト(価値観の転換) これからの建築士には「新築を設計するだけの仕事」ではなく、長期的に建物や地域と関わり、建物の再生や活用を支える役割が期待されているのです。 空き家や集合住宅などの不動産が集まったエリア全体を「まちづくり」としてどう活用するかを考える力も重要になります。 また、マンションのように複数の人が所有している建物では、住民の意見をまとめたり、合意形成を進めたりする調整役としての力も必要になります。 ■福祉・医療分野との連携も期待される 団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になっていくため、高齢者の生活を支えるための空間づくりがますます重要になります。 医療・介護・福祉などの分野とも連携できる建築士の活躍が期待されます。 ■まとめ 建築士は「建てる人」から「活かす人」へ 今後の建築士は、空間をつくるだけでなく、「空間をどう使うか」「どう活かすか」「どう管理・再生するか」をリードできる専門職として、他の専門家と協力しながら、継続的にまちや暮らしを支えていく存在になることが求められています。 建築士の新しいフロンティアは「建物のマネジメントと再活用」にあると言えるでしょう。
次回は、四号特例縮小と壁量規定の見直し(背景)について、お話します。
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