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■耐力壁の強さ(壁倍率)は、どうやって決まるのか? 木造住宅の設計でよく出てくる「壁倍率」 これは、耐力壁がどれだけ地震や風に耐えられるかを表す数字です。 ただ、この数字は最初から決まっているわけではありません。 実は、実際に壁を作って試験し、その結果をもとに決められています。 今回は、耐力壁の強さがどのように評価され、壁倍率として定められているのかを、できるだけ分かりやすく整理してみます。
■壁倍率は、実験をもとに決められている 耐力壁の強さを調べるときは、まず実物大に近い壁を作って試験します。 一般的には、1間幅(1820mm)の壁を用意し、上から横方向の力を加えて、繰り返し揺らすように荷重をかけます。 なぜ繰り返すのかというと、地震の揺れは一度だけではなく、何度も行ったり来たりするからです。 そのため、壁の性能も、単に「何kgまで耐えたか」ではなく、揺れを受けたときにどう変形し、どこまで持ちこたえるかまで確認します。 ■荷重と変形の関係をグラフで見る 試験を行うと、壁に加えた力と、壁がどれくらい傾いたかの関係が分かります。 これを表したものが「荷重-変形角曲線」と呼ばれるグラフです。 このグラフを見ると、 ・どのくらいの力まで耐えられるのか ・変形が進んでも急に弱くならないか ・最大でどこまで粘れるのか といったことが分かります。 つまり、耐力壁の評価は、単純に最大強度だけを見るのではなく、壊れ方や粘り強さも含めて判断しているということです。 ■現在の評価法では、4つの指標で壁を評価する 現在の評価法では、耐力壁の性能を主に4つの指標で評価します。 ●1つ目は、降伏耐力です。 これは、壁が本格的に傷み始める前に、どれだけの力に耐えられるかを表します。 中地震のように、建物をできるだけ損傷させたくない場面で大切な指標です。 ●2つ目は、靭性を考慮した値です。 靭性とは、簡単にいえば「変形してもすぐに壊れず、粘り強く耐える性質」のことです。 地震時には建物がある程度変形するため、この粘り強さはとても重要です。 2000年の法改正では、この靭性の考え方が評価法に加わり、耐震性能の考え方がより実態に近づきました。 ●3つ目は、最大荷重に対して余裕を見込んだ値です。 最大荷重をそのまま使うのではなく、安全のために少し厳しめに評価します。 ●4つ目は、ある一定の変形時点での耐力です。 これは、最低限の剛性や安定性が確保されているかを見るための指標です。 ■一番良い数値ではなく、一番小さい安全側の値を使う 試験は通常、1体だけではなく3体以上で行います。 すると、同じ種類の壁でも、少しずつ結果にばらつきが出ます。 そこで、各指標について平均値を求め、さらにばらつきも考慮したうえで、最終的にはその中で最も小さい値を採用します。 これは、とても大事なポイントです。 耐力壁の強さは、「一番良かった結果」を使うのではなく、「安全側に見た控えめな値」で決められているのです。 ■設計で使う強さは、さらに調整される こうして求めた基準となる値を、短期基準せん断耐力(P0)といいます。 ただし、試験体と実際の建物は、まったく同じ条件ではありません。 現場での施工精度、材料のばらつき、経年変化などもあるため、設計ではさらに調整が必要です。 そこで、P0に低減係数をかけて、実際の設計に使う値に直します。 これが短期許容せん断耐力(Pa)です。 つまり、 ・試験結果から決めた基準値が P0 ・実際の設計で使う安全側の値が Pa というイメージです。 ■そして壁倍率に換算される この短期許容せん断耐力をもとにして、最終的に壁倍率が決まります。 壁倍率1.0は、許容せん断耐力でいうと、壁長さ1mあたり1.96kNに相当します。 この「1.96」という少し半端な数字は、昔使っていた200kgfをSI単位に換算したためです。 つまり壁倍率とは、試験で確認した耐力壁の強さを、設計で使いやすい数字に置き換えたものなのです。 <まとめ> 耐力壁の壁倍率は、単なる経験則で決まっているわけではありません。 実物大の壁を使った試験を行い、荷重と変形の関係を確認し、さらに安全側に補正したうえで定められています。 しかも現在の評価法では、最大強度だけでなく、変形しても粘り強く耐えられるかという点まで重視されています。 これは、中地震での損傷を抑えるだけでなく、大地震での倒壊防止まで見据えた考え方です。 「壁倍率」という数字の背景には、実験・評価・安全率という積み重ねがある。 そう理解すると、設計でこの数値を使う意味も、よりはっきり見えてくると思います。
次回は、耐力壁の理想形について、お話します。
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